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彼がいなければ、アメリカの音楽史はきっと違ったものになっていたと思う。

Vol. 1 に引き続き、今回のネタも グルーヴキングの James Gadson 。

始めてJames Gadson と出会ったのは、ロサンゼルスの空港の近くの無名のクラブだった。

忘れもしないその日の出来事。

とりあえず、友人から奪ったJames Gadson の電話番号に夕方電話してみた。すると奥さんが電話に出た。

「んあ~、ジェームスなら今晩◯◯っていうクラブでライヴやってるよー。」

当時インターネットもない時代だったので、焦って電話局の番号案内で電話番号を聞いて早速電話して住所を聞き出し、そのままお店へ行ってみた。

その店には、黒人のお客さんが5、6人程しかいなかった。アメリカでは、ちいさなバーやレストランで普通に超大物スタジオミュージシャンが普通にライブやっていたりする。

「うお!間近で観れるではないか!!!」と大興奮で、ベストボジションを探し、ひたすらJames Gadson を瞬き忘れて熟視した。

大興奮でしばらく観ていると、バンドが休憩に入った。すると、ステージからJames Gadson は降りて来て、こう言った。

「コンニチワ~!」(うお!日本語話すぞこのおっさん!!)

すると、すぐ真横にどしんと座った。びっくりした僕は必死でJames がレコーディングした曲の話をした。あの曲はどうやってるのか、この曲のグルーブが大好きだとか、あの曲のレコーディングはどうやって行われたのかとか。

すると、「お前、明日オレん家に遊びに来いよ。」と。

さらには「ブレーク終わったら次のセットで叩くか?」とまで言われた。

しまった、、、、、、、

試練到来。。。

出された曲は”Back at the chicken shack” というJimmy Smith の1963年に発表されたブルースの代表的な曲。

記憶に残る最低の演奏をしてしまった。。。

ちなみに、その時にギターを弾いていたのは、Charles Write & Watts 103rd Street Rhythm Band  でギターを弾いていたCal Green。George Benson が師としていたギターリスト。

(Watts 103rd Street Rhythm Band にはEarth Wind & Fire のAl McKay も所属していたスーパーバンド)

叩き終えた僕に、James Gadson は「お前、明日俺ん家来たらシャッフル教えてあげるよ」と。

叩けなかった自分が情けなくもあり、教えてもらえるという喜びもありで、その後はひたすらJames Gadson のプレイを熟視した。

とまあ、前置きはこれくらいで。

そんなJames Gadson のレコーディングには、いろんな不思議なマジックがある。その中のいくつかはこんな感じ。

マジックその1:実際に叩いている音に比べて、録音された音は凄まじく太くて大きい。

マジックその2:ドラムだけ聴いてるとバラバラなのに、オケ中だとぴったりあっている。

マジックその3:録っているときより、プレイバックを聴いてる時の方が更にかっこいい。

マジックその3:後でキーボードや歌や、オーバーダブが行われる度に、さらにトラック内でのドラムがでかくなる。

マジックその5:聴けば聴く程かっこいい

マジックその6:何よりも、他のミュージシャンのウケが良い。どんな曲でもポジティブなリズムで、おしゃれで、味がある。

たぶん、僕よりももっと具体的にギャドソンを研究している人もいると思うけど、僕が感じたのはこんな感じ。

前回の記事で、やや修正があります。

レコーディングで使用しているキットのタムとフロアは、よーく見ると”Wood-Fibergarass” となってた。で、バスドラはFiber Glass Shell。

Wood-Fibergrass 。。。

傷だらけの日本製のキット。最高だな。

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タムの裏のヘッドを外しているのはなぜか?という質問もあるみたいなので、僕の分かる範囲でお答えします。

1970年代前半、まだアナログのレコーディングが2インチの16トラックから24トラックへ移行していっていた時代。エンジニア達は何しろドラムの録り方に試行錯誤していた。

キットはでかくなるし、トラック足らないし、ドラムキットの倍音凄いしで、ラディックからはプラスチックのキットが発売されるしで、みんなが苦労していた。

そんな中で、おそらく始めに裏のヘッドを外したのはHal Blaine ではないかと思う。

要するに、裏のヘッドが鳴ってしまい困ったエンジニアが「マイクはトップにしかないんだから、裏のヘッドはいらねえ」という判断に至ったのではないかと。

マーヴィン・ゲイのI Want You は24トラックのアナログだ。その前のLet’s Get It On はまだ16トラックのはず。その間、3~4年の間にダビングの技術が向上し、ドラムの録り方が随分変わったのだを思われる。R&B 界ではデッドなドラムサウンド程、踊れる音になっていった。裏のヘッドを外しても倍音が出るときはさらにガムテでミュートしまくった。

70年代初期、デッドなドラムサウンドでアメリカ西海岸のおしゃれなビートを作ったJames Gadson。

こんなエピソードもある。

あるテレビ番組にいろんなドラマーが出演するとこになった。James Gadson も出演することになった。

他のドラマーはみんな番組用に、ドラムヘッドを新品に変えていた。気を利かせた番組側がJames のキットもヘッドをあたらしくしようと、James が到着する前に新しいヘッドに交換してしまった。

それを見たJames は「お前らは、俺のサウンドを破壊する気か?」と一括。

James にとっては自分が使い続けているヘッドには、自分の音が染み付いていて、ヘッドも含めて自分の大事な楽器だという。

本当に見習うべき事だと思う。そのヘッドは何年もかけて、自分が作った音なのだから。

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この日のセッションは、巨匠ベーシストのLee Sklar と。彼もベースの弦は滅多に変えない。

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彼がいなければ、アメリカの音楽史はきっと違ったものになっていたと思う。

今回のこのセッション、はたして誰のレコーディングなのかは、また後日。

次回はMatt Chamberlain。

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About the author

Los Angeles 在住、音楽系コーディネーター。 日本とアメリカの音楽業界を結ぶ架け橋として活動。 関わる日本のアーティストは、松任谷由実、吉井和哉、VAMPS、Spitz、B'z、Puffy、Sing Like Talking、EXILE、オレスカバンド、Asian Kung-Fu Generation、Scandal、初音ミク etc ... 。 ドラマーとしての活動も多く、渡米後はジョー・ポーカロ、ジェームス・ギャドソンに師事。ヴィニー・カリウタ、ジョッシュ・フリーズ、スティーブ・ガッド、テリー・ボジオ、スティーブ・フェローン、マイケル・ブランド等、数々のドラマー達のレコーディングに立ち合い、ロスのドラム界との交流も深い。

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