雷神ドラマー、伊東賢佑。
数年前、ヴォーカロイド「初音ミク」の名を初めて耳にしたとき、そのバンドに自分自身が目を向けたかというと、全く向けていなかったと思う。そもそも「ヴォーカロイドって何??」ってところから始まり、そこに生身のドラマーがいるということに考えは繋がらなかった。
実際にライヴを観たことない方の多くから、「全部打ち込みですよね?」とか「上映会みたいな感じですか?」と同じような質問を何度も受けた。
アメリカ人を中心に、その都度Youtubeの映像を見せたりして、本物のミュージシャンたちがいて ”LIVE” であることを説明すると、演出や技術のクオリティーの高さ、そしてミュージシャンたちのレベルの高さに皆驚く。伊東賢佑のドラミングからは恐ろしいほどのエネルギーが放出され、初めてライヴを観た人たちは、想像していた以上に勢いのあるロックなサウンドに衝撃を受ける様子が、どの会場でも伝わってくる。
今年春に行われた”HATSUNE MIKU EXPO 2016 North America Tour” は、アメリカ、カナダ、メキシコの10都市にて合計13公演、総動員数4万人を越え、どの公演も大盛況。ほとんどの公演がソールドアウトとなり、テキサスやメキシコでは追加公演が行われた。
オーディエンスを見ていると、人種や年齢幅を越えて、初音ミクが世界中で注目されていることを証明している。
初音ミクの楽曲のジャンル幅は非常に広く、膨大なソングライブラリーから選ばれた曲では、幅広いスタイルと高い演奏技術を要求される。さらにはアップテンポのものも多いので、2時間通して全力疾走するようなものである。
今回はそんな初音ミクの北米ツアーを支えた雷神ドラマー、伊東賢佑にインタビューしてみた。
UMEJUN)
今回北米の10都市回ってみて、思い出深い街はどこでしょうか?オーディエンスの反応が良かった街、好きだった会場、個人的に気に入ったポイントなど教えてください。
伊東賢佑)
全都市それはもう思い出ばかりなのですが、強いて言えば最初に訪れたシアトル、スナッピーコード事件のロサンゼルス、ニューヨーク、シカゴ、メキシコのメキシコシティですかね。
まずはシアトル。僕らが泊まったホテル近辺がそうだったのかもしれませんが、沿岸部の賑わいも綺麗な街並みも豊かな自然もとても居心地が良かったです。メジャーリーグを観戦できたのも嬉しかったですね。マリナーズ青木さんのプレイに勇気と元気を頂きました!それと、楽器屋で一台のポークパイのスネアを購入しました。完全に一目惚れですね。そしてそのスネアが後々僕を救ってくれるとは思いもしませんでした…(笑)
ロサンゼルスはロングビーチにショッピング、楽器屋は何件もはしごして、全てが衝撃的でしたね。ヘヴィメタルバンドSteel PantherのLiveも見にいきました。もう最高でしたよ笑。滞在中は終始刺激が止まなかったですね。ロスLive当日、こんな事があるのかと思いましたが、本番の演奏中スネアのスナッピーコードが切れてしまい、曲間でサブスネアと交換したのですがまさかのサブの方も調子が悪く、シアトルで購入したポークパイを急遽使用しました。それがまた最高に鳴ってくれまして(嬉泣)。調整をしていても何が起こるか分からない…しっかり洗礼を受けましたね(笑)。
ニューヨークは、朝も夜も鳴り止まない車のクラクションとか道を行き交う人の数も尋常じゃなく、止まらず動き続けている巨大都市の膨大なエネルギーを常に感じていました。ここに演奏をしに来たということだけでワクワクしっぱなしでしたね。滞在期間は短かったのですが根強く記憶にあります。ハマースタイン・ボールルームで演奏できた事も凄く嬉しかったです。100年の歴史、恐れ入ります。このツアーを一緒に回ったニューヨーク発の最高に踊れるクレイジーバンドanamanaguchiとの打ち上げもすこぶる盛り上がりました!本当に良い奴らで、また再会したいしまた一緒にLiveしたいですね。
シカゴではブルースの巨匠バディガイのお店にセッションLiveを見に行きました。お酒を飲みながら現地のセッションミュージシャン達の演奏を聴いていたのですが、お客さん達の音楽の楽しみ方というか欲する姿勢というか、ふらっとお店に入って食事と同じように音楽も味わっている感じが、なんだか極めて生活の一部で、人として生きている一つの証とも言えるぐらい、僕が思っていたよりもっともっと音楽が近くにありましたね。日本ではあまり見れない光景に、少し嫉妬しました(笑)。愛の溢れるとても素敵な場所でしたね。
初音ミクのライヴでは、由緒正しいLive会場のバックステージに数々の有名アーティスト達のサインを見てガキんちょの様に興奮したことも覚えてます。メンバー皆、それぞれ好きなアーティストの横に書かせて頂きました。
メキシコの首都メキシコシティでは、ホテルの近所にすごく落ち着くカフェがあったので気に入って毎日通ってましたね。ちょうどサッカーの試合や選挙のタイミングだったので街に活気がありました。情熱的な人が多かった気がします。夜は歓楽街にも足を運んで、若者達が踊り狂うお店やカジノにも行きましたね。タコスが食べた過ぎて、1日タコスのみを食べるっていうほぼ罰ゲームみたいなことも思い出の一つです(笑)。とにかく街も人もエネルギッシュで、Liveは全会場の中で一番盛り上がりました!
UMEJUN)
あのポークパイのスネア、僕も一目惚れしましたよ。昔、スタジオNOAHに置くためのヴィンテージのスネアをいくつかNOAHの方達とロスで買い付けしていたときに、同じポークパイのスネアを買いました。今もNOAH で貸し出されていると思います。
伊東賢佑)
出会いは大切にしたいですよねぇ。街のスタジオで色んなスネアをレンタルして叩ける環境って、本当素晴らしい事だと思います。
UMEJUN)
僕もシカゴの会場で、B.B. King のサインとか見つけました。伊東さんは誰の隣にサインしたんですか?
伊東賢佑)
ギターの三沢はB.B.Kingの横に書いたみたいですよ。僕は楽屋付近にあったLAURYN HILLの横に漢字で書かせて頂きました。いやぁ一生の思い出です!
UMEJUN)
ちなみにカジノでは、もちろん勝ったんですよね(苦笑)?
伊東賢佑)
カジノ…その話は今度飲みながらゆっくり(笑)。
UMEJUN)
ごちそうになります(笑)! ライヴ中のお客さんたちの反応はどうでしょう?日本と随分違うと思うのですが。
伊東賢佑)
そうですね。勿論初音ミクを見に来ている事に違いはないのですが、今回のツアーで色濃く感じれたのは、初音ミクの横で演奏しているミュージシャンの僕らの事もしっかり注目してくれていたことですね。僕らがアクションを起こした時のリアクションは猛烈でした。そして皆自由に楽しんでいましたね。終始ミクに見入っている人、強烈に躍り倒している人、僕のドラムを見ながら練習している人も!笑
特にメキシコのメキシコシティはさいっっこうに盛り上がりました。標高が高く酸素が平地の3分の2程の場所なのですが、皆さん元気元気。1曲終わる度に起こるオーディエンスの声援で会場がビリビリ振動してました。あれはまた味わいたい思い出ですね。
UMEJUN)
僕もメキシコでは、会場やホテル、町の人たちがみんなすごくにこやかで、とても居心地が良かったです。でも実は、そのサッカーの試合で負けた方のチームの選手の一人が翌日高速運転中に誘拐されるという事件があったんですよ。無事にその日のうちに見つかったそうですが。このニュース知ってました?メキシコって熱いところだなーと痛感しました。
伊東賢佑)
そうだったんですか!高速運転中って(笑)。それだけ国民が熱中して応援している様は圧倒される部分がありますが、それは純粋に恐いですね。
UMEJUN)
特にメキシコではお客さんの声がバンドの音と同じぐらい大きな歓声でしたよ。メータで測ってるのを見てて笑ってしまいました。メンバー紹介の時、キーボーディストのMEG.ME さんに対してはメキシコの情熱的な男性客が凄まじく反応してましたね(笑)。急に男の歓声の割合が大きくなってました。
伊東賢佑)
MEG.ME人気は凄かったですね。同時に女性のエネルギーも強烈で、ウィンクや投げキッスは常時ありました(笑)。
UMEJUN)
オフも時々ありましたが、何をしましたか?
伊東賢佑)
いっろいろやったし行きましたねぇ。中でもサンフランシスコの監獄アルカトラズ島、ダラスで約一週間のレンタルハウス、ニューヨークのブルーノートで見た大御所フュージョンバンド「スパイロジャイラ」のLive、カナダのナイアガラの滝…これらが記憶に色濃く残ってますね。有難いことに観光は沢山させて頂きました。あとはチームにサウナのプロがいたので(笑)、サウナを探して夜な夜な遠出したり。でもどこの都市でも楽器屋はマストでしたね!
UMEJUN)
食べ物に関してはどうだったでしょうか?何か特別に美味しかったものとか、不味かったものとかありませんでしたか?
伊東賢佑)
コーヒーが大好きで、アメリカのコーヒーの安さとサイズの大きさに衝撃感激でした。食べ物は、サンフランシスコで食べたローストビーフにヒューストンで食べたワニ、シカゴで食べたシカゴ・ピザ、美味かったですねぇ…あとメキシコのタコスも!ただ、チームスタッフに美味いとオススメされたダラスで食べたとんこつラーメンは人生食べたラーメンの中で一番不味かったです(嘘の情報を掴まされました笑)。Live終了後ですこぶる腹が減ってたので、とても残念でした…(泣)。それもまた良い思い出なんですけどね(笑)。
UMEJUN)
忘れられないエピソードを教えて下さい。(ベースのコンちゃん話など)
伊東賢佑)
沢山ありますねぇ。各地に飛行機で移動する際、ベースの金野のスーツケースがチェックのために大体ほぼ全箇所開封されていて中身がでろっと出た状態でバッゲージクレームに流れていたり笑。メンバーで飯を食いに出た時も、ベースの金野だけ注文がなかなか通らなかったり笑。
あとはアメリカでは夜、割と早い時間にお酒の販売が終了したりお店も早めに閉まってしまうので、ホテルの部屋でメンバーとチームスタッフと買い溜めしておいたお酒を飲みながらカードゲームをしたり話をしたり、翌日がオフの場合は旅行プランをたてたり。キーボードのMEG.MEがしこたま酔っ払ってふにゃふにゃになってたり(笑)。ギターの三沢はほぼ毎日でしたが(笑)。
でも、今回のツアーのチームスタッフや現地のスタッフとの絆というか、皆で最高のものを作っていこう、初音ミクってすげぇんだぞ、日本人ってすげぇんだぞ、ってっていう全体の意思がどんどん強くなってどんどん高まっていく感じが本当に楽しくて充実していました。ツアーの醍醐味ですよね。メキシコが最後だったのですが、このツアーの集大成ということで、最高の表現ができたと思っています。このツアーこそ、一生忘れられないですね。
UMEJUN)
コンチャン、いつも良いネタを運んでくれますよね。オープニングのAnamanaguchi のベースのジェームスと兄弟じゃないかって説が出るほど、似てましたね。そしたら、さらにそっくりな人がメキシコの現地クルーにいたりして(笑)。途中から僕たちクルーは、メキシコのその彼を「コンチャーン」って呼んでたから、スペイン語話せなくても「コンチャーン」って日本語で呼ぶと必ず彼が来てくれてました(笑)。ライヴ終わってお別れする時、メキシコの「コンチャン」はとても寂しそうでしたね。
伊東賢佑)
Anamanaguchiのジェームス、かもし出す雰囲気も服のセンスも激似でしたよね(笑)。メキシコのクルーの彼、ステージ上がってベース持っても恐らく誰も金野でないことに気付かなかったでしょうね(笑)。金野とは18歳からの付き合いになりますが、僕が信頼している最高のベーシストです。
UMEJUN)
初音ミクのライヴで、演奏上気にかけているところはなんでしょう?
伊東賢佑)
日本のアンダーグラウンドから今や世界の歌姫と成った初音ミクの楽曲は、作り手が様々なだけあって、音は勿論ジャンル、BPM、ドラムのアプローチ、どれも幅が広く一筋縄ではいかない曲が多いのですが、基本的には原曲のドラミングを基準にプレイしています。ただ、原曲通りにプレイするのもまた一つの選択肢なのですが、画面ではなくステージ上で初音ミクが歌って踊るLiveを見にきている人達に、せっかくならLiveの迫力や臨場感を思う存分味わってもらいたいと思い、同じステージに立つ僕なりにフレーズやフィルをアレンジしたり見せ方や見え方の工夫をしています。ドラムを叩いたことのある人ない人、その場にいる人の聴覚だけじゃなく視覚でも心を動かされるドラムを叩きたいと心がけてステージに立っています。初音ミクのLiveは普段フェスに行く人達もロックキッズ達も十分楽しめると思いますよ!MCは控えめですが(笑)。
UMEJUN)
確かに、すごいジャンルの幅ですよね。Vocaloid ならではだと思います。曲のライブラリーも500曲以上ではないかと誰かから聞きました。想像してた以上に激しいロックもあれば、ラテンっぽいものもあったり、でもどこかアジア感が残ってたりと。世界中で流行る理由の一つにはそこもあるんでしょうね。
伊東賢佑)
そうですね。それだけ沢山の人達の願望や希望を背負ってるのかなと。彼女のビジュアルもまた日本の文化の発展の一つですよね。
UMEJUN)
現在、使用中のスネアに関して教えてください。
伊東賢佑)
北米ツアーで使用したのは、パールのセンシトーンプレミアムブラスシェル14″×5” (詳細) ですね。抜け過ぎず深みがあって、チューニングもし易いので、扱い易さ重視の僕にはもってこいでした。普段は現場によってですが、パールのセンシトーンブロンズシェル14″×6.5″や、シアトルで購入したポークパイのブラスシェル13″×7″も独特の音ですが、使用しています。
UMEJUN)
かなり、筋肉が引き締まっていますが、普段から体力づくりをされていますよね?具体的にはどういうトレーニングをしてますか?ジムとかにも通ってますか?
伊東賢佑)
よく聞かれるのですが、これといって体力づくりはしていないんです。ジムにも通っていません。
UMEJUN)
えっ!!ジム行ってないんですか?ムキムキじゃないですか〜!!
伊東賢佑)
強いて言えば入浴後の柔軟と食事だけですね。ドラムを叩く際に使う筋肉と体力はドラムを叩いて鍛えるのが一番だと思っているので、ひたすら叩き込む!っていうのが体作りになっているのかもしれません。北米ツアー前の個人練習でスタジオに入った時は部屋を常に30度に設定して室内をカラッカラにしてサウナスーツを着て叩いてました笑。無駄な事と笑われますが、部活みたいで好きなんですよ(笑)。
食事は、家で食べる際は一日二食で昼は適当(チョコばっか食べてます)、夜は鳥のささみと納豆と根菜って感じです。とか言ってハンバーガーとかを無茶苦茶食べたりもします。なので、無理のない程度にしめるとこはしめて、楽しむって感じですかね(笑)。
UMEJUN)
いや〜、どう見てもジム行ってる体つきですよ。30度の中で練習するのがポイントなのかな〜。確かに、初音ミクのLiveの曲を30度の中で叩いてると、相当な運動量ですね(笑)。
伊東賢佑)
一日二公演2daysの時は恐ろしく痩せますよ(笑)。
体温が上がって心拍数も上がるとクリックに対して走り気味になったり集中力が持続できなくなったりするので、いかにその環境に体を慣れさせるか、が僕にとっては凄く重要なことで。Live当日を想定して食事をとる時間や量を調整したりもしてます。
UMEJUN)
次は中国公演ですね。何か特別に楽しみにしていることなどありますか?
伊東賢佑)
僕は初めて中国に行くので、どんな出来事が待っているのかワクワクしています。北米ツアーを一緒に回ったバンドメンバーで遠征するので、あの時の勢いと同年代のパワーで、全力で楽しみたいですね。恐らくオフの日の夜はふにゃふにゃになっていますが(笑)。
UMEJUN)
インタビュー、有難うございました。中国公演頑張ってきてください。
伊東賢佑)
はい、行ってきます!
伊東賢佑(イトウ ケンスケ)
14歳からドラムを始め、18歳でスリーピースロックバンド『Prague』を結成。20歳でSonyMusicの新人開発部SDにスカウトされ、22歳でSonyMusic系列のKi/oonMusicからメジャーデビュー。
同レーベルで4年間活動後、個人での活動を開始。日本のアーティストは勿論、来日した海外シンガーのバックドラムを担うなど、Live・Recording活動は多岐に渡っている。
ボーカロイドシンガー『初音ミク』のアメリカツアーも大成功を収め、国内だけでなく海外でも幅広く活動している。
–Band–
(ex.Prague)/OddPublicAssociation/C.R.C(海外でのJapanFesやAnimeFesで活動するボーカルレスバンド)
–Support–
Hatsune Miku/OverTheDogs/KieranStrange(CANADA)/ESNAVI(USA)…etc
– ライヴインフォメーション–
Odd Public Association oddpublicassociation.com
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