「世界で最も汁の出ている楽器」と言われる楽器がある。
「メタルパーカッション」である。
通常、バンドにおいてそれぞれのパートの主な役割といえば、シンガーは歌詞をメロディーにのせ歌い、ギターはバッキングを刻みソロを奏でる、ベースは低音をはじきドラムのリズムと一体になってグルーブを生み出す。
こんな所ではないだろうか。
では、メタルパーカッションは?何の為にいるのか?
正確な起源は今となっては分からないが、物(金属)を叩けば音が鳴るという最も原始的な原理から想像するに、他のパーカッション同様にロックンロールやジャズ、ブルース等の誕生よりも遥かに古代から存在すると考えられる。
そして、現に歴史上には強烈なインパクトを遺したメタルパーカッションアーティストが多数居た(居る)事がいくつかの文献に記されている。古代には敵の襲来を伝える鐘であったり、豊作を願う祭で奏でられていた音やそこから生まれてきた民族音楽、近代ではパンクやノイズ、テクノミュージックとの鬼っ子として誕生したインダストリアルミュージックの世界から登場し、ドリルやチェーンソー等も振り回し、音楽的にも視覚的にも解体を試みた Einsturzende Neubauten(アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン)や、それ以前からメタルパーカッションによるパフォーマンスを行っていたZ’ev、ジョンスペンサー率いたノイジーブルースガレージバンドPussy Galore(プッシーガロア)他多数の汁溢れる英雄が世に送り出されている。
しかし、これほどにも長きにわたり人間と歩みを共にしてきたメタルパーカッションだが、未だになんの為にいるのか良く分からない、というかまず知らない、という意見が音楽リスナーの大多数を占めているのが現状である。
その原因の一つにメーカー、楽器店の介入がほぼ100%無いという事が挙げられる。つまり前述したアーティストも恐らくはほとんどの楽器を自作していたのである。なので構造や見た目もまちまち、鳴らされるサウンドも千差万別で「これ」といった定義がしにくい。そこが商品化しにくい要因の一つであると想像できる。
それと暴力的かつ危険なパフォーマンスと金属を鳴らしきる体力、精神力。
要するに見る方もやる方も「しんどい」のである。
だが一度鳴らせば既存の楽器からは出ないであろう特別な音色の響き、そして生で目撃すれば見た者の脳裏に焼き付く視覚的インパクトと、これまでの楽器の完成度や美しさと比肩しようとも決して劣らない存在感を放ち続けているのである。
だがどんな音がするのか。
そこで実際に作ってみようと思う。
〜ドラム缶〜
まずはある意味定番と言えるドラム缶。
一口にドラム缶と言ってもこれまた千差万別で、サイズ、形状、厚み、材質、などにより加工前の状態ですでに大きくサウンドに違いがある。ギターでいえばマホガニーやメイプル材の違いのようなものだろうか。まぁこの辺は正解というものが存在しないので各々の直感・センスでいい音を判断していただきたい。
そしてドラム缶ならではの重厚なルックス!やはり一部のファンを鷲掴みにしているのはメタルパーカッションのルックスにあるとみて間違いない。そんなドラム缶。ノン加工でそのまま叩いても絵になるので余計なアクセサリーを付けず使用している人も結構いるのではないだろうか。叩く場所によって音が変わるし床に置いて叩くのと吊り下げて宙に浮かせるのとでも随分出音に違いが出てくる。ゴロゴロ転がしたりすることもできるうえにライブでのクライマックスや客ウケの悪い日などは思い切って投げても壊れることはない。その他ピックアップマイクを付けたりグラインダーやチッパーなどの建築機材で演奏しても唯一無二の破壊音と火花などによる視覚効果も絶大だ。
自分の場合は用途に合わせていくつか使い分けをしていて一つはドラム缶本体に切れ込みを入れそこに大き目の鉄板を絶妙な角度に差し込む事によって叩いた鉄板がドラム缶と共振しその揺れをピックアップマイクで拾いベースアンプで増幅する事により低音を得られる1号機(通称リーゼント)と軽めで小型の鉄板をドラム缶のリム部分の上に乗せその鉄板やドラム缶本体を叩くことでちょうどスネアのスナッピーの要領で高音の抜ける打撃音が得られる2号機をシチュエーションに合わせて使い分けている。分かりやすく言えば1号機はバスドラム、2号機はスネアの役割を果たしている(と思っている)。
作り方は簡単。
1号機
ドラム缶一つと大き目の鉄板、ドルトとナットを用意します。
ドラム缶は片面が蓋になっていて取り外しができるオープンヘッドタイプを選ぶと余計な手間が省けます。
下の写真の通りドラム缶側面にグラインダーでカットし切れ込みを入れます。
次に鉄板をこれまた下の写真の通りにドリルで穴を開けます。
この穴はボルトとナットで固定し、演奏中に振動で鉄板がドラム缶から抜けるのを防ぐための必要不可欠なものです。
大惨事が起こる前に必ず用意しましょう。
穴の直径はボルトの直径プラス1~2ミリが理想だと思います。
そしてこの鉄板を先程のドラム缶の切れ込みに差し込んで外側からボルトとナットで固定してください。
ひとまずこれで完成です。
ここから先は更にカスタマイズできる可能性がいくらでもあります。
自分の場合は鉄板の打面に厚さ3mmのゴム板をミュート材として貼り付けて耳に痛い高音のアタック音を消しています。
これにさらにアコースティックギター用の貼り付けるタイプのピックアップを付けそれをベースアンプに繋ぐ事により更に低音を倍増させ和太鼓風の打音を演出する事も可能です。
二号機は更に簡単です。原理はドラム缶の上に先程よりは小さめの鉄板を乗せてそれを叩く。
それだけです。
これからやってみよう!という初心者の方にはこちらがオススメでしょう。
ドラム缶の打面と鉄板に穴を開けそこに杭を通して固定すれば叩いてる間に多少鉄板が移動しても落ちる事はありません。
板が移動するのがイヤ!というのなら2箇所穴を開けて固定すればかなり固定度は上がります。
ですがあまり固定しすぎるとミュートがかかり過ぎて鳴りにくくなってしまう事もあるので要注意です。
これを応用していけばたいがいの金属はメタルパーカッションにする事ができます。
原理の二大要素は
1)浮かせる事(ミュートしない事/1号機の原理)
どの金属も最小限の固定で浮かす事により最大限に音量やサスティーンを得られます。
もしくわ、
2)ぶつける事(2号機の原理)です。
金属どうしがぶつかり合う事により他の楽器には再現できない破裂音、破壊音が生まれます。
これを念頭に(あるいは無視して)どんどんオリジナルに進化させていっていただきたい。
長時間汗ダクになって作り上げた結果驚く程鳴らなかったりもしますが大切なのは失敗を次に活かす忍耐と楽しむ気持ちです。
でもそんな大変なのはいきなりちょっと、、、だとか、まずそもそも身近にドラム缶がない!
という方もおられるかと思います。
てすが、大丈夫!もう少し簡単なものもご紹介しましょう。
〜カーホイール〜
手頃でお勧めなのは車のホイール。
一つでもインパクトはありますが、いくつか種類の違うものを並べるとどうでしょう。
何か音階らしきものも生まれます。
ルックスもドラムに似ていてチャーミングです。
うまくのせればスネアスタンドにもセットできてうまくまとめれそうです。
グラインダーを使ってホイールに切れ込みを入れればさらに一つのホイール内で複数の音階を出す事ができたり音の響きを大きく変えたりもできます。
(鳴らなくなったりもします。その場合は御愁傷様ということで諦めて次のホイールをゲットしましょう。)
あとは筋力と気分の盛り上がりに任せて思いっきり叩くだけです。ロックンロール!(`_´)ゞ
*副作用
さて最後にみなさんに大切な事を説明しなければなりません。
メタルパーカッションには物理的な恐ろしい副作用があります。
人間の感覚とは不思議なもので始めのうちは大きな音に感じてたり何事にも用心をしたりしていても何度も繰り返して慣れてくるとさらに大きな音、面白い響きを得るために手段を選ばずまた奏法や機材や楽器の使用方も知らず知らずのうちにエスカレートしていく傾向にあります。
そしてこれほどの強烈な破壊音は我々の鼓膜から入り脳を侵食していきます。
これは自分のバンドのメンバーに実際に現れた症状なのですが、硬い金属打撃音を長年聴いていたせいで、脳が打撃の瞬間に爆音が発生すると錯覚してしまい、日常生活中に箸を落としたり、はたまたホコリが床に落ちただけでその瞬間大音量の衝突音が脳内に鳴り響き渡りその度に心臓を締め付けられるようなショックに怯えなければならなくなったと言います。
彼はほどなくして日常生活もままならない廃人状態に陥ってしまいました。
これは本当の話です。
自分が鉄板のアタック音をミュートするきっかけになったのもこうした健康被害が発生したからという背景があります。
結果的に更に美しい響きを手に入れる事ができたので棚からボタ餅、ではなく禍転じて福と為すですね。
ミュートする事により彼の症状も回復に向かいました。
まさに失敗は成功のもと、ですね!
また自分も色んな方から心配されているのですが演奏中に誤って自分の指などを金属部分にぶつけてしまいますが、当てどころが悪いと傷口からの破傷風菌などの感染や、金属どうしのぶつかるダメージがスティックを伝わり自分の骨を軋ませ破壊していくと言われた事もありました。自分の周りだけでも更にあるので、まだまだ未報告の沢山の危険があると考えて間違いありません。
まさに心身ともに破壊されていく諸刃の剣といえるメタルパーカッション。
その響きは安易に纏まる事を良しとせず過剰に音楽を、ロックを、生命を鳴らそうとするフロンティアスピリット、つまり人間の限界値を超えんが時にほとばしる生命のしぶき、汁。
その進化を体現する鉄の音色は今も人々の心を掴んで放さないのである。
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